Lime's Blog

Writing about movies and daily life

フランシス・ハ感想

映画の金属看板 ティンサイン ポスター / Tin Sign Metal Poster of Movie Frances Ha

アダム・ドライバーが出ているという理由だけで見た。

2012年の若いアダムが見たかった。

撮影した時は28歳くらいだと思う。

GIRLSのアダムより清潔感があって余裕があって爽やかな笑顔をしている演技だった。

映画途中から全く出て来なくなって、ストーリーも淡々と進んでいき、しかも画面がずっとモノクロということもあって夢の中にいるような気持ちになり…

ザコシ師匠

眠たくなって来ちゃった…

しかし、最後の主人公の顛末、そして謎タイトル「フランシス・ハ」の意味が分かるとたちまち晴れやかな気分になり、もう一度始めから見直してみたくなるという不思議な映画だった。

もう一度見直して初めて、キャラクターたちの会話の内容が気になり、モノクロだった意味も気になり、調べていくといろんなことが理解出来て、そしてまた始めから見直してしまうという… 監督の罠にかかってしまったのかも。

まずは細かい映画の話はさておき、一番の目的だったアダムについて綴ってみたい。

アダムの役はボーイフレンドなの?

フランシスとレヴ

写真がたくさん飾ってある壁の前でアダムの役(以下レヴ)が主人公フランシスと2人きりになり、一瞬だけ見つめ合って…やがてレヴがフランシスの肩を触って(おそらく顔に触ってキスの流れか、抱き寄せるか)な雰囲気になろうかならないかの瞬間

「エ〝っ!」

みたいな変な声をフランシスがあげ、レヴが手を引っ込めるシーンは印象的だ。 ハッキリとレヴを拒絶している。 レヴも察してそれ以降はあまり関わって来ない。

フランシスは彼氏と別れた後に行ったパーティーでレヴと出会い、いい雰囲気になってはいたのだが、よく2人のやりとりを見てみると最初から噛み合っていないのがわかる。

フランシスとレヴ

レヴが最初にフランシスに送ってきたスマホの挨拶文は、

「ヤッホー美女よ」(Ahoy sexy!)

フランシスはそれを親友のソフィーと並んで見ていた。

フランシスはすぐに返事を打たずに、「ソフィーは私のジョークをウケてくれるけどレヴはウケてくれない」という内容の話をソフィーにしている。

フランシスはスマホを置いてソフィーと私たちの「未来の話」をし始める。

フランシスはレヴに興味がないのだ。

「未来の話」に結婚や出産の話題はない。それぞれ自分のやりたい道で成功している未来が語られている。

フランシスが再びレヴと連絡を取るのは、大好きな親友ソフィーが別の友達ともっと良い住宅街へ引っ越してしまったからだ。

税金の還付があって気が大きくなったというきっかけもあった。

フランシスにとっては、ソフィーが一番、レヴはその次の存在なのだ。

レヴとの食事デートシーンも会話が噛み合わない。

レヴ

ニックスのロッカールーム。ファンだろ?

フランシス

一時期ちょっと

ニックスはニューヨークのバスケットボールチーム。

NEW YORK KNICKS

映画の舞台はニューヨークだからね。

レヴはファンなのだろうか。

あるいはメジャーなスポーツで彼女の気を引いて次のデートの約束をするためかもしれない。

彼女は興味なし。

レヴ

ヴィンテージバイク買う予定なんだ

フランシス

音が大き過ぎて音楽が聞こえないからヤダ

という彼女の反応にレヴは「2ケツ無理か…」と思ったかもしれない。

ザ・トゥナイト・ショーというバラエティー番組の司会者「ジェイ・レノ」については、レヴは最高と評してるのに対して、彼女ははっきり「嫌い」と言っている。

もうこの時点で趣味が全く噛み合っていない。

アダムの役レヴってどんな人?

山高帽を被り、首元にネックレス、ゆるいインナー、カジュアルなジャケット。

都会に住む、いかにもオシャレな雰囲気。

フランシスのダンスに興味持ったり、「映像やってる友達紹介するよ」と自然に口にしたりする芸術家気取り。

壁に家族でもない写真をいっぱい飾ってヴィンテージのカメラ持ってるからカメラマンかなと思ったけど、「彫刻はどう?」って聞かれてるので彫刻家かもしれない。

バイクもヴィンテージものを買おうとしてるので、ヴィンテージ好き。そういうのもいかにも芸術家気取り。

ボンボンで、親とうまくいってないというキャラ設定が、スターウォーズのベン・ソロみを感じてしまう。

そして注意してみてないと気がつかなかったが、やたら女を自室に連れ込もうとする!

フランシスに「エ゛ッ」で振られてから、もう別の女ネッサを連れ込んでしまっていた。チャラい男子だねえ。

そしてなんといっても見せ場は、フランシスとソフィーの前で下半身をタオルで巻いただけで、あの肉感的なガタイのいい上半身を余すところなく肌見せしたシーンだろう。 2人の女性に見られながら、

レヴ

ジロジロ見てイイよ

などと言って変態っぽい。

カイロ・レンの衝撃的上半身裸シーンは、アダムドライバーの必殺技的なお家芸なんでしょうかね。

シャレオツなファッション、多彩な方面の芸術かぶれ、セクシーな裸体、レヴはニューヨークの若きモテ系男子として描かれているようだ。

バイクのメットを持って颯爽と出かけようとするレヴ。

レヴ

ネッサ(フランシスの後に部屋に連れ込んだ女)は、オーラル派だよ

フランシスに対して、爽やかにエロスの世界に誘うモテ系色男レヴくん。

オーラル派とは…口腔性交のことだろう。

ここのシーンでは「遊びのセックス」と解釈して良いのかな。

そんな誘いを華麗にかわすフランシス。

やっぱりフランシスにとってレヴは苦手なタイプと見える。

レヴがモテ系ならば、フランシスはレヴの友人ベンジーにしょっちゅう言われてるように「非モテ」だ。

左:ベンジー 右:レヴ

フランシスは、

●恋愛に対して「手強い女」で、

●喧嘩する相手は男ではなくて女友達で、

●パーティーに誘われても「プルースト」を読むために断る。

内容は

「社交に明け暮れ無駄事のように見えた何の変哲もない自分の生涯の時間を、自身の中の「無意志的記憶」に導かれるまま、その埋もれていた感覚や観念を文体に定着して芸術作品を創造し」wikipediaより

といった様なことを原文はフランス語で書かれている。

これはベンジーに「非モテ」だねって突っ込まれるね。

レヴの口癖

キザな男が、女性に声をかけるときに決まり文句みたいなのを言うことは良くある。

レヴの場合は「ヤッホー美女よ」「ご婦人たち(レイディス)」

また、女を自室に連れ込むときに使う常套句「部屋見る?」は、劇中何度も出てくるので後半は笑ってしまった。

しかも面白いのは、フランシスがソフィーを自室に招くときに「部屋見る?」とレヴの口癖をまねているのだ。

「ヤッホー美女よ」「部屋見る?」が何度も繰り返されるのは日本のお笑い芸「てんどん」に似ている。

これはのちの作品マリッジ・ストーリーでも見られたので、バームバック監督のクセなのかな。

彼の師匠とも言えるジャームッシュ監督も好んで使用する。

「部屋見る?」を繰り出して、相変わらず別の女を連れ込んでいるレヴ。 (何回も繰り返されると本当にこちらも吹き出してしまうね)

それを呆れたように一瞥したフランシスが「クッキー食べたい」と唐突に言い出す。

銘柄は「チェスメン」と言ってたのでおそらくこれのことだろうと思う。

日本人で食された方の感想は、シンプルなバター味。

つまり定番で安定した味のクッキーなのだろう。

浮気性で女にも芸術にもフラフラしているレヴを皮肉っていたのかも。

チェスメンクッキーは、カルディや成城石井で買えるかも??←カルディーにあった

さらにベンジーによるとレヴはバイク・車・スケボーなどの移動が好きとのことで…モテ系だね。

それを聞いたフランシスは「移動は億劫」とウンザリした顔をしている。

レヴとフランシスが付き合うということは100%無いね!

フランシスが真に求めるもの

では、主人公フランシスが求める恋愛とは何か?

映画中にセリフでハッキリと述べている。

フランシス

私が恋愛に求めるのは、ある特別な瞬間よ。

その特別な瞬間とは、要約すると周りにたくさん人がいても、自分と相手が自然と引き合ってしまうこと。

フランシスの恋愛とは、ビンテージバイクやバスケの試合やコメディ番組、オーラルセックスとかで引き合うものではなくて、2人だけにしかわからない運命的な相手を求める心だということ。

これはこれは、チャラくてボンボンなレヴくんはお呼びではなかったね。

グレタとアダムの意外な関係

映画のストーリーは、これでもかとフランシスがレヴを拒否する要素を詰め込んできている。

しかも、レヴの口癖「ヤッホー美女よ」や、「部屋見る?」をフランシスが真似するシーンは、

ちょっと彼をバカにしている様なのでフランシスはレヴを男としてみていない感じ。

ましてや彼女の欲する「運命の相手」とはかけ離れた存在だ。

役柄のパートナーとしてはぞんざいな扱いなのだが、意外にもアダムを監督に紹介したのは、他ならぬフランシスを演じたグレタ自身だったのだ。

アダムが役者として頭角を表し始めたテレビドラマ「GIRLS」は、フランシス・ハと同じ2012年だが、キャスティングされた当時は「GIRLS」は放映されていなかったのだ。

フランシス・ハの監督ノア・バームバックはアダムを知らなかった。

グレタが以前アダムの舞台を見て、すごくいい俳優だと監督に勧めたのだった。

アダムはオーディションに合格してレヴ・シャピロの役を掴んだのだが、すでに監督のお気に入りだった。

バームバック監督: 「オーディションでの彼は、すごくエキサイティングで、パフォーマンスもすばらしかった。レヴはマイナーなキャラクターなんだけど、アダム自身が持っているユーモアによって、シーン全体に命を吹き込んでくれたと思う。」*1

イイ線いってるけど選ばれない男、ふわふわっとした凡庸なレヴは、後半全く出てこないこともあって、ともすれば視聴者に忘れられてしまうキャラクターだ。だけれども、見た人の中にはきっと、レヴのなんとも言えない不思議な魅力に取り憑かれたことだろう。

*1:監督インタビュー記事openers.jp