Lime's Blog

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最後の決闘裁判(研究メモ)

最後の決闘裁判 (吹替版)

ネタバレ全開!注意!

最後の決闘裁判と羅生門

巨匠リドリー・スコット監督の映画「最後の決闘裁判」は、主演3人「夫・元友人・妻」の順番でそれぞれの視点で同じ出来事を繰り返して描いている。

複数の違った視点で同じ事を繰り返す手法は黒澤明の映画「羅生門」が発祥で、「ラショーモン・アプローチ」という映画用語までできた。

「羅生門」は1951年にヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(最高の賞)、1952年にアカデミー賞で名誉賞(現在の国際長編映画賞)を受賞。海外に多大な影響を及ぼし、以後多くの作品で「ラショーモン・アプローチ」を真似た作品が作られた。

リドリー・スコット監督の「最後の決闘裁判」は、第1章が夫視点、第2章が元友人(というか性犯罪人)視点、第3章が妻の視点で描かれている。

羅生門では性犯罪人、妻、夫という順番で、それぞれ異なった視点と主張が繰り広げられる。最後に杣売りが「真実」を語る。つまり主張した3人は皆嘘をついていた。

「最後の決闘裁判」は、第3章の妻が「真実」を語っている。ここが、黒澤の映画と大きく違う点である。

最後の決闘裁判と”MeToo”

映画の主題は性的暴行被害に遭った女性の気持ちにフォーカスされている。これは映画が作られる前のアメリカ社会の情勢が強く影響していると思われる。

いわゆる#MeToo運動である。コロナ禍になる前はこの問題がニュースやSNSで話題になっていた。以下は記事の抜粋である。

ハリウッドの有名映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインは長年にわたり、多くの女優や女性社員を、セクハラや性的暴行の犠牲者にしてきた。BUSINESS INSIDER

ドナルド・トランプ米大統領による性的加害行動の被害に遭ったと訴える女性3人が11日、ニューヨークで記者会見を開いた。トランプ氏に無理やり触られ、なでられ、キスされ、侮辱された、嫌がらせをされた BBC NEWS

ハリウッドプロデューサーも大統領もその地位を利用して相手につけ込んだり示談金を用意したりして女性たちを沈黙させた。それが2017年頃から被害女性たちが実名で告発するようになった。

2020年初頭のゴールデン・グローブ賞のホスト、リッキー・ジャーベイスがその得意の毒舌で児童買春などセクハラ疑惑のある大物をそのステージ上でめった切りにしたのが思い出される。

「ジェフリー・エプスタインは、著名人たちに少女買春をあっせんしてきたことで知られる大富豪。昨年獄中で(首吊り)自殺したが、いまも口封じのための暗殺説が根強くささやかれている。」その彼に対しての危険なジョークを繰り出し、会場がどよめくもリッキーは「君らがエプスタインの友だちなのは知ってるけど、私にはどうでもいいことなんでね」と、とどめを刺した。MOVIE WALKER PRESS(一部加筆修正して抜粋)

エプスタインに関しては、サタデー・ナイト・ライブにてアダム・ドライバー(最後の決闘裁判で元友人の妻を襲う役を演じている)がエプスタインを演じている。

地獄でサタンに話しかけられて「(首を)吊られてた」という台詞は強烈なブラック・ジョークである。

アメリカでは大統領をはじめ、大富豪、ハリウッドスター達がその強い立場を利用して多くの女性を陵辱してきたという事実が、コロナ禍以前に問題となっていたのである。

非常に書きづらいけど書いてしまうが

最後の決闘裁判に出演しているマット・デイモンとベン・アフレックは映画「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」に出演しているが、この映画のプロデューサーこそは、前出のセクハラオヤジ、ハーヴェイ・ワインスタインその人なのである。

一緒に仕事していたからといって彼らも同罪、ということではなく…ベン・アフレックはある事で女性から性被害を告発されたことがある。

マット・デイモンは女性への暴行についての認識について非難されたことがある。最後の決闘裁判を彼らが制作した動機は、もしかしたらこのことに対しての自己弁明あるいは禊的な意味合いもあるのかと勘繰ってしまう。

まとめ

「最後の決闘裁判」は、クロサワ映画の羅生門的な手法を取ってはいるが、主題は女性の性被害について、女性の気持ちに寄り添っている。背景にアメリカの大きな社会問題#me tooが影響していると考えられる。