Lime's Blog

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グリーンブック感想

グリーンブック(吹替版)

注意書き:「黒人」「白人」という言葉を使うことはあまり適切ではないと思っていますが、ここでは表現上やむを得ず使用することをお許しください。

2019年のアカデミー賞で「グリーンブック」は作品賞をとりました。

黒人と白人のバディが主人公で、実話を元にした物語ですが、全く同じような設定で同じくノミネートされた「ブラック・クランズマン 」は惜しくもオスカーを逃しました。

ブラック・クランズマン監督のスパイク・リーが「これは誤審だ」と言ったといいます。

また、グリーンブックはオスカーをとったにもかかわらず、批評家からも不満の声がたくさんあがりました。

グリーンブックはどんな話なのでしょうか?

インテリで、天才的な音楽の才能のある黒人が、粗暴で無教養で定職もない白人と一緒に音楽ツアーをする話。

黒人は品があって優雅に話し、お金も人脈も持っている。

一方、白人は人生に無計画で感情的、怒った時は相手を殴ってしまい、仕事も続かないので貧乏である。

黒人が豊富な資金力で、貧乏な白人を運転手に雇う。

そこから2人の車の旅が始まる。

この2人が長い旅の中で反発しあいながら、お互いを理解していき、最後は友情までが生まれてめでたしめでたし。

黒人と白人が仲良くなってハッピー、ついでにオスカーもとってハッピー!

って、ふざけんじゃねえよ!コラ!

んなわけねーだろ!現実を見ろ!

というのが、スパイク・リーの心のうちだったのかと、拝察します。いやもっと、複雑な気持ちが伺えます。

黒人の音楽家ドン・シャーリーは、とても理知的で身のこなしが優雅です。金持ちの余裕も感じます。一方、雇われ運転手の白人トニーは、ガサツで怒りっぽく場当たり的な人間です。

ドン・シャーリーがなにかとやんちゃなトニーを嗜めたり、諭したりして優位な位置にあります。ですが、旅を進めるうちに2人の位置が逆転してきてしまうのです。

ドン・シャーリーは、自分がコンサートを開く会場で、食事やトイレを黒人という理由で拒否されます。洋服屋でスーツを試着しようとしたら、それも拒否されます。不当逮捕で警察に勾留される時は、なんと全裸で鎖に繋がれてしまいます。

ドン・シャーリーが黒人差別を受けることで窮地に陥るたびに、トニーが白人の力を使って助けていくのです。

批評家たちは、この映画は白人がヒーローになって黒人を助けるという構図に見え、「白人にとって心地良い映画」「伝統的な作品」などと評したとされてます。

ドン・シャーリーとトニーの車での旅は、見ていて心地良く楽しそうに見えました。

ドン・シャーリー役のマハーシャラ・アリさんの優雅さやピアノ演奏演技の自然さ、トニー役のヴィゴ・モーテンセンさんの演技はとても魅力的で引き込まれました。

ドン・シャーリーがトラブルに巻き込まれるとトニーが助けるので「ああ良かった」とホッと胸を撫で下ろし、見ているこちらも心が暖かくなりました。

しかし、見方を変えるとドン・シャーリーの身の安全と保証は白人のトニーの助けがあって初めて成立するものということになります。

黒人ドン・シャーリーの窮地を助けたのは、運転手のトニーや司法長官ロバート・ケネディでしたが、彼らは白人です。仲良くなった、あるいは理解のある白人に助けてもらうしか黒人の生きる道はないというようにもみえます。

私はドン・シャーリーとトニーのやりとりが純粋に面白くて、2人の間に友情が芽生えたところなど夢があって良いなと思っただけに、黒人が真に1人の人間として生きていくのが難しいという側面に深く考えさせられました。

ドン・シャーリーとトニーが旅したのは、アメリカの南部であったということも留意したい点です。トニーが作中でドン・シャーリーは「北部ならチヤホヤされ、3倍の金を稼げた」とセリフを言ってました。北部なら歓待で南部なら冷遇という差が示唆されています。

南北戦争以前、奴隷を了承していた南部では、黒人をどのように扱っているかということがこの映画から伝わってきました。

だからこそ、白人の正義感から救われる黒人像で終わってほしくなかったというのが、この映画に対する多くの人の思いなのでしょう。

自分なりにいろいろ調べて整理してみたので、まだまだ理解が追いつかないところはありますが、この映画を通して勉強になりました。

ブラック・クランズマンについてもまた新たな見方が出来るようになったかなと思います。またブラック・クランズマンを観たくなりました。