【ネタバレ無し】感想
スターウォーズ最新作において、ダースベーダーのような黒い出で立ちで、罪も無いような人を赤いライトセーバーでバサッと殺してしまうような役に扮するアダム・ドライバーが、
ごく普通の人を演じたらどうなるか?こうなるよっ!てお話です。映画です。
パターソンとは何か
映画タイトルのパターソンという聞き慣れない言葉は、アメリカの都市の名前であり、アダム・ドライバー演じる主人公の名前でもある。
パターソン市は、アメリカのニュージャージー州パサイク群にあり…といっても日本に長く住んでる私には、どこかさっぱりわからない。
監督のジム・ジャームッシュ氏は「ニューヨークから遠くない、日帰り出来る」という理由で、ある日ふらりと立ち寄り、そこで観光したところ、この映画の構想が浮かんだというので手持ちの地図で調べてみた。
(日本・世界地図帳DualAtlas2010-11年版/朝日新聞出版)
おわかりだろうか。 「ココ」というアヤシい文字で指された地名を。 あのアメリカのNYからほど遠くないところにこの都市はある。
だが映画を観ればわかるが、パターソン市は観光名所にデカイ滝があるくらいで、他にはさしたる見所の無さそうな平々凡々とした没個性的な街並である。
その平々凡々な街並をこれまた平々凡々な巡回バスが通り、その冴えないバス運転手がこの作品の主人公なのだ。
だが私自身は、この映画をすでに映画館で2回鑑賞し、Blu-rayを購入したあとは部分的にだがほぼ2日おきに鑑賞している。 何度観ても飽きない。 観るたびに新しい発見がある。ドキドキしていく。感動がある。
まずこの映画の見所はなんといっても主人公を演じるアダム・ドライバーの存在だろう。 彼は2018年現在、日本でも知らない人はいないくらいの有名人になっている。 【アダム・ドライバー】の名前を知らない人でも、「最近やってるスター・ウォーズの悪役で黒い格好してるカイロ・レンだよ」と説明するとたちまちわかる人が大勢いるだろう。
スターウォーズのスター俳優がパターソン市という平凡な街に住んでいる「パターソン」という名前の冴えないバス運転手のおじさん役をやっている。
(葛飾区柴又の「柴又さん」みたいなもんよ)
そのギャップがこの作品の楽しみ方の1つでもある。
ジム・ジャームッシュ氏によると、アダムが主人公に抜擢された経緯は、パターソンさんがバスドライバーだけど詩を書くことと、アダム・ドライバーが海兵隊員だったけどジュリアード音楽院卒であるという点に、【労働者階級だけどアーティスト】という共通項を見出したからだという。
名門大学を経て映画人となった教養の高いジム・ジャームッシュ氏が、アダムを平凡な身分のアーティストとして描く様は、東大卒の山田洋次監督が渥美清を平凡な街【葛飾柴又】で「寅さん」として描いた様に少し似ているような気がする。
ともあれ、【労働者階級だけどアーティスト】という監督の視点は、この作品の根幹ともなる肝であると思うため、深読みをするのは後日掲載予定の【ネタバレ】記述にゆだねたい。
多様な人種が出演する
映画「パターソン」の特徴的なこととして、出演者のほとんどが有色人種であるという点である。
まず、主人公パターソンさんの奥さん役のゴルシフテさんはイラン人である。 いつも行くBARのマスターは黒人である。 そこで出会い、交流する人たちも黒人ばかり。 最後に登場するのはなんと日本人(永瀬正敏)である。
そこに監督の意図とする部分もあろうかと思うが、そもそもこの「パターソン市」は移民が多く住んでおり様々な人種が集う、るつぼと化しているようなのである(Wikipedia参照)。
そんなリアルな「パターソン市」の街の表情を監督は見逃さずに丁寧に描き出している。
白人のアダムが、さまざまな人種の人々と交流する様を観るのも楽しい。
スター・ウォーズの孤独なコミュ障カイロ・レンとは真逆の、明るくて親しみやすいキャラがそこにある。
斜陽の街パターソン
平々凡々と言ったが、かつてこの街は【グレートフォール】と呼ばれる滝を利用した産業で大いに発展した工業都市であった。
滝の水力を使った産業でパターソンは急成長を続け、繊維産業をはじめとする多くの工場が立ち並びました。中でも絹織物の一大産地となり、ニックネームは「絹の市」。 ホームページ:https://www.travel.co.jp/guide/article/27829/より引用
この街の工場で働く労働者に移民が多く集まったのも人種のるつぼと化した理由であろう。
だがそんな繁栄も1914年くらいまでで、その後は徐々に衰退していった模様である。
この作品について言及した宇田丸さんのラジオによると、パターソン市に実際住んだことのある日本人は「極平凡な街だし、この映画を観ても平凡な日常を感じた」そうだ。実際にそこに住んでいる人にとっては、街はそれほど活気のある場所では無いらしい。
ではなぜ、ジム・ジャームッシュ監督は平凡な街並で冴えないバス運転手の話などを映画にする気になったのだろう。
やはりそれは、この街に滝があること。 有色人種の移民が多いなどの多様な文化性。 産業都市として発展したが、今は斜陽的な趣きの佇まい。 街の没価値性。 などなど、ジム・ジャームッシュ監督が映画パターソンで語りたかったことを語るにふさわしい舞台であったのだろうと拝察する。
日本とパターソン
日本人俳優:永瀬正敏さんの存在感
ラストに永瀬さんが出て来る。
パターソン市の有名な観光名所になっている滝【グレートフォールズ】の前で、ベンチに座ったアダム・ドライバーと永瀬正敏さんが並んで座っている。
この時の2人の会話・・・そして目の前の滝。
これが重要だ。
アメリカ人のアダムに日本人の永瀬さんがこの風景の中で話しかけていることがとても重要だ。
私は1回目に渋谷で鑑賞したときはこのラストシーンの意味が皆目分からなかった。
だが、ラストにこそ意味があると思い、もう一度目黒の映画館に足を運んだ。
2度目に観た時にとうとう理解したような気がした。
なぜか涙があふれてしまって止まらなかった。
ベンチに座って滝を観ているアダムを観ながら涙がポロポロ出て止まらなかった。
この映画に出逢って本当に良かったと思った。
Blu-rayを買う決意をしたのもこの時だ。
まだ未視聴の方は、レンタルでもぜひ一度観ていただきたい。
日本人としての誇りを感じると思う。
日本人の感性
ジム・ジャームッシュ監督がなぜ長年、永瀬正敏さんを映画に起用し長くつき合って来たか、それを考えるとラストシーンの意味がより感動的に自分の中に盛り上がって来る。
それは日本人的な仏教思想と深く関係があるということだけここには記しておきたい。 後日ネタバレ感想文にていろいろと述べていきたい。
アダムと日本
アダムは日本のことと言えばたぶん「カラオケ」という言語と、去年12月に来日した時にちょっと触れたけん玉くらいしか知らないだろう。(その事も既に忘れちゃってるかも)
日本の歌については知らない、とインタビューに答えていた。
それでも彼は不思議と我が国日本とのかかわり合いが深い人のような気がする。
まず、スター・ウォーズがそうだ。
ジェダイは日本の武士道から。
ライトセーバーは日本の真剣(刀)から。
ダース・ベーダーのコスチュームは伊達政宗の甲冑をオマージュしている。
カイロ・レンのコスチュームについては、千葉真一の忍者ドラマ「影の軍団」での服部半蔵の衣装を参照していただきたい、似てますから。
カイロ・レンの「レン」は「蓮(はす)」から来ていると聞いてます。
「パターソン」出演の前に遠藤周作原作の「沈黙」という映画に出てますね。日本にやって来た宣教師の役でした。
そんな感じで映画を通して日本と関わることの多い俳優さんだと思います。
この「パターソン」においても永瀬さんとの交流のシーン、そして詩的世界における東洋的文化思想の示唆など、アダムを取り巻くアートの世界が日本人である私自身の精神世界を大いに震わせてくれてやまない。
ネタバレ感想に続きます。